とうかのブログ

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千歳くんはラムネ瓶のなか5 感想 ネタバレあり

今回は昨日の4月20日ガガガ文庫から刊行されたチラムネの5巻の感想を書いていきたいと思います。

 

感想はネタバレありで書いていくので、まだ未読というかたはご注意ください。

 

 

 

千歳くんはラムネ瓶のなか5(著者:裕夢 イラスト:raemz)

 

 

 

 

 

 

今回の巻は様々な出来事があった1学期を終え、迎える高校2年の夏の一幕を描いたものとなっていました。花火大会に藤志高伝統の夏の勉強合宿、通称”夏勉”。夏のイベントにふさわしい内容をチーム千歳のメンバーみんなで過ごす。まるで高校2年の夏という2度と訪れることのない時間を大切に心の中に刻み込むように。

 

 

読み始めてすぐに感じる「ああ。チラムネの世界だ」という感覚はさすがの一言。

4巻の発売から約半年たっているのにも関わらず、まるでその期間も朔たちの世界は当たり前のように時間が流れそこでみんなが生きているような感じ。そんな風に感じさせられるほど文章からチラムネという世界観を感じさせられました。

 

この作品は独特の擬音表現と比喩が特徴的だと個人的には思っていて、詩的にも感じられる言い回しがこの「チラムネ」という作品の世界を作り出しているのかなと思います。

 

 

そんな今回の5巻なんですがいつもと描かれ方が違っていたんですよね。いつもは基本的には朔からの視点で物語が進んでいくことが多かったんですが、今回はヒロインたちと朔の視点で交互に物語が進んでいました。ヒロインたちが朔に対して抱く好きの気持ち。そしてそれに対応するように描かれる朔視点からのヒロインたちに対する思い。

鳥肌が立ったのは恋愛的な意味があるかどうかは別として、朔のそれぞれに抱く気持ちがそれぞれのヒロインと全く一緒だったこと。そしてそれを表現するために全く同じことばで締めくくる描きかた。その言葉にこれまでの巻で描かれた「特別」な思い出が詰まっていて。個人的に刺さったポイントでしたね。

 

 

そしてそして。今回ずっと描かれていたのが”二度と戻ることができない日々”についてです。朔も夕湖も。そしてそれ以外のメンバーも”今”の関係がいつまでも続くとは思っていない。必ずどこかで終わってしまうもので、もし来年も同じメンバーが集まったとしてもその関係まで一緒ということは決してありえない。

例えば明日姉と朔の関係。来年になれば明日姉が東京に行き朔とはほとんど交わることのない時間を過ごしてしまう。

例えば陽と朔の関係。告白をなかったことにして前のような関係に戻ることができたかもしれないけど、それでも自分を見てほしい。恋愛対象として朔と関係を続けたいと願った。

例えば夕湖と朔の関係。周りから正妻と言われ最も朔のそばにいることができた。けれども朔にとっての1番になるためにまっすぐに思いをぶつけた。

 

これまでの出来事を経て確実に変わってしまった居心地がよかった関係。朔自身もいつか向き合う必要があると分かっていたけどつい目をそらしていた事実。

夕湖は自分が告白することでこの関係が崩れると分かっていても、それでも勇気を出して思いを伝えることを選んだんですよね。きっと朔が断ると分かっていても。

 

高校という夏のイベントが描かれているのに常に感じるセンチメンタルな空気感。それぞれが自分の思いを引っ込めたり吐き出したり。笑顔で楽しく過ごすのと同じくらい誰かに対する思いに悩み葛藤し、ときには諦めたりしてると思うとまさに青春。4巻が”心が熱くなるような青春”なら5巻で描かれたのは”心が締め付けられるような青春”。

 

この作品に高校生のときに出会えていたらと思う反面、高校というもう2度とやってこない時間を理解しているからこそ、この作品の美しすぎる青春が心に刺さってくるのかなとも思います。

 

 

夕湖の告白から海人の朔への思いの吐露。朔の状況に対してほとんどの面々が見てることしかできなかった。たった一人を除いて。

まさかまさかの展開に鳥肌が止まらなかったです。

今回それぞれのヒロインが朔に振り向いてもらうためにいろいろとしていたんですけど、優空だけはいつもと変わらずただ朔を見守り続けていました。むしろ朔だけでなくほかのメンバーにさえ寛大にただ見守っている印象で、ある意味最強のヒロインでもあったわけですが。

そんな優空が唯一、夕湖を振った朔を周りを気にせずに追いかけてきた。誰よりも朔の隣でいるために。何かを選ぶときは自分が一番大切なものを優先する。かつて体育館でかわした誰よりも隣でいるという約束を体現するように。

最後のサックスを奏でる優空はどこまでも心優しくそして強さがあり。そんな様子を表現するイラストにも感動させられます。ほんと最高の引きです。

 

 

長々と書いてしましましたが、やっぱり裕夢先生は高校生のうちの輝かしい青春模様を描くのがうますぎる。キャラたちが抽象的な言葉で語る思いは何とも言えない切なさがあって。眩しくきれいなだけじゃない、すこしだけほろ苦い青春がたまらなく好きです。

間違いなくターニングポイントとなる今回の巻。次の巻ではどんな話が描かれるのか。余韻に浸りながら楽しみに待っていたいと思います。

 

 

それでは最後まで読んで下さったかた、ありがとうございます。