とうかのブログ

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いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら 感想 ネタバレあり

今回はMF文庫から以前刊行された作品「いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら」を読み終えたのでそちらの感想を書いていきたいと思います。

 

ネタバレありで感想を書いていくので、まだ未読というかたはご注意ください。

 

 

いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら(著者:永菜葉一 イラスト:なび)

 

 

 

 

 

それではいきますね。

 

 

家庭環境に恵まれず妹を守るために中学生ながらにアルバイトを繰り返す日々を送る少年海人。かたや好きなことをする時間もお金もあり周りとも友好的な関係を築くことができていた少年浩太。

何も持たない少年とすべてを与えられていた少年。そんな二人が物語を愛し物語に生きる一人の少女、神楽坂朱音と出会い小説家という道に生きる物語。

 

 

まず率直な感想から。

面白い!

この作品は対極な境遇の2人の少年が少女との出会いをきっかけに小説家を目指し努力するクリエイターものの作品です。クリエイターものならではの創作にかける熱量はもちろんのこと、その過程で訪れる苦悩や葛藤というものを描いていてくれてすごく心揺さぶられました。またこの作品の特徴ともいえるW主人公。二人の正反対な境遇が二人の作品に宿る魂の核をなしているようでどちらともに共感でき違った生きざまにかっこよさがありました。

またこの作品はエピローグから物語が始まりそこで開示されるのが二人の少年が小説家を目指し片方は筆を折ってしまったという結末。このエピローグは全部で3度描かれるんですが最後までどちらが小説家になることができたのかを分からせないように描かれていて面白いなと思いました。

 

 

では細かいところについても書いていきますね。

 

上にも書いたようにこの作品は冒頭で一人は小説家になれなかったと断言されているんです。つまり今から繰り広げられる若きクリエイターたちが全力で向き合う物語の末、夢を実現できるのは一人しかいないってことなんですよね。

だからこそ寂寥感があふれているというか薄暗い世界観というか、決して甘い世界ではないということを読者は理解したうえで読み進めていくことになるんですよね。

 

でもこれこそがクリエイターものの本質で、これがあるからこそ夢に向かってあがき苦しむ彼らの姿がより美しく見えたのかもしれないのかなと思います。

ラノベ作家さん自らがラノベ作家ものを書くとこういった生々しい現実がよりリアルに感じられその登場人物たちが抱く感情がとてもじゃないけれどフィクションのものには思えなくなる。だからこそキャラクターの一言一言が心に刺さるし物語に引き込まれるのかなと思います。

 

 

主人公の一人海人は何も持たないからこそ小説に魅了された一人。彼のおかれた環境は本当につらく冒頭からめちゃくちゃ心えぐってくる.......

だからこそ朱音との出会いから変わっていく海人にはすごく応援したい気持ちになりましたね。小説に必死に向き合い、どうしようもない感情を小説にぶつける。そんなやり場のない感情を昇華し生きる彼には励まされました。

 

後半に父親が澪に暴力をふるったことにより筆を折った展開はほんとつらかった。何も持たず小説しか書けなかった彼が、小説からも離れなければならない。逆に朱音の本当の気持ちに築くことができなかった浩太はまだ夢を目指す権利がある。

同じ夢を見た二人の運命がこんな不条理により翻弄されてしまうのが心にきました。

 

浩太の激励によりまた再び筆を執り前を向くシーンはグッときましたね。正直海人と浩太では海人に感情移入しすぎて浩太にあまり好感をもててなかったのですが、彼のまぶしすぎるまっすぐな言葉は心に響きました。

夢を目指し競い合ったライバル。そしてそんな二人の別れ。小説を書くという意味では同じだけれど違う道を歩むことを決意した二人。

最後の託したという言葉はジーンときて胸が熱くなりました。

何も持たない少年がたどりついた道。それは最初とは異なるものだったけれども前向きな一歩ですごくよかった。

 

 

そんなこんなで浩太がプロになった作家。と思いきやまさかのエピローグに出てきていたのは海人のほうでしたね。

カクヨムに投稿していた作品を編集に見つけられ大逆転。逆に浩太のほうは芽が出ることなく終わってしまった.......

と思われたときの浩太の登場。

王道の展開ではあるけれどもそれでもやっぱり熱い。一度は筆を折り小説から離れたけれどもライバルに火をつけられてまた再びこの戦場に挑む決意をした。

ヒロインとして登場した朱音との関係もよかったけれど、浩太と海人のライバル関係が個人的には刺さった。対極な二人だからこそお互いの持つものに嫉妬し、時には勝てないことを悟り。それでも最後に心に火をつけてくれるのはライバルの存在で。

まさにクリエイターものの熱さここにありって感じでした。

 

 

 

この作品の最後に綴られた一文。「あなたに届けと願って、今日もどこかで紡がれている。」

この言葉はきっとこの作品を読んだ読者に投げられたものなんでしょうね。作品を通し二人の苦悩や葛藤、そしてそれでも前を向く姿勢。同じく何かを志す人を激励するような素敵な一文だったと思います。

またこの作品は本を読む人なら絶対に何かを感じ取ることができるそんな素晴らしい作品でした。

 

 

それでは今回は今辺で。最後まで読んで下さった方ありがとうございました。